トラック運送事業者の財務の特徴と改善のポイント
決算書は企業の成績表
はじめに
日々の運行、そして大切なトラックのメンテナンス、本当にお疲れ様です!
さて、遅くとも2029年には始まる事業許可の更新制ですが、その備えは万全でしょうか? まだ、詳しい更新要件は発表されていませんが、多くの経営者の方が気にしている財務について解説します。財務の改善には時間がかかりますから、今から取り組んでおくことをお勧めします。
トラック運送事業者の財務の特徴
1.原価が分からないことが多い
筆者は多くの事業者の決算書を見てきましたが、運送原価を管理している中小事業者は1割にも満たないのが実情です。決算書を作成する税理士さんや会計士さんは、運送業をサービス業のように捉え、売上原価を0にしたり、傭車費のみを計上していたりする決算書を多く見かけます(図表1参照)。このような場合、本来、運送原価で見るべきドライバーの人件費や、燃料油脂費、修繕費、ETC料金も販売管理費に計上されてしまい、どこに問題があるのかがわかりづらくなります。
また、運送と倉庫の両方を行っている事業者の場合、事業別で損益を管理していないと赤字の原因が運送なのか倉庫なのかもわかりません。これでは改善しようにも有効な手立てが打てません。
2.借入金が多い
昨今、トラックの値段が非常に高くなっており、感覚的には10年前の2割から3割近く上がっています。そのため、自己資金でトラックを購入できるのは一定の規模の事業者でなければ難しく、車両更新のたびに借入を行わざるを得ない状況となっています。また、リースでトラックを購入する事業者も多いですが、リースも多くの場合にはリース債務といって、車両割賦未払金等という科目で計上され、実質的には借入と同じ扱いとなります(図表3参照)。
さらに、コロナ禍の際に貨物量が減少し資金繰りが苦しくなり、多くの借入を行った事業者も多いのではないでしょうか?
3.売掛金の回収が遅い
今、業界の多層構造が問題となっていますが、下請で行った運送の場合、元請が入金してからの支払いとなり、支払いサイトが60日程度となることが多いようです。元請の真荷主からの入金が遅い場合、さらに支払いが遅れることがあります。図表3の例でも、売掛金の回収期間は2カ月超となっています。
しかしながら、賃金は30日以内に支払っており、駐車場や倉庫の賃借料は前払いのケースが多くなっています。そうすると、資金繰りが厳しくなってくるのは当然です。
粗利益(=売上総利益)を把握して、改善のポイントを見つける。
もし、貴社の損益計算書に運送原価が計算されていない場合には、正しい粗利益はわかりません。まずは、自分たちで運送原価を計算してみましょう。もし、難しければ、このコラムを税理士さんや会計士さんに見せて作ってもらうのも一案です。
1.粗利益とは?運送原価とは?
粗利益とは、売上から運送原価を引いたものです。では、運送原価とは何でしょうか?
大まかに言うと、労務費(ドライバーの賃金等)、燃料油脂費、高速料金、修繕費、車両の減価償却費、自動車保険、荷役資材等の消耗品費、傭車費等が、これに当たります。要するにトラックを動かすのに必要な経費です。
もし、これらが決算書上で区別されていないのであれば、まず、これを月々の費用から抜き出してみましょう。
図表1の決算書上では、一括して計上されているために、分割しなければならないものに、人件費、交通費、保険等があります。また、自社便による収入と傭車を使った利用運送収入がはっきりと分かる場合には、その収入も分けましょう。
整理の手順は次の通りです。
- 売上高を自社便収入と利用運送収入に分けます。
- 人件費は、ドライバーのものと事務員のものに分け、ドライバーのものは労務費として運送原価に、事務員のものは販売管理費の人件費に残します。
- 交通費は、トラックのETC使用料を高速料金として運送原価に、ドライバーの通勤費は運送原価のその他経費に、それ以外の交通費は販売管理費に残します。
- 消耗品費の中の荷役資材等は運送原価に移します。
- 保険料では、トラックの自動車保険を運送原価に、生命保険等は販売管理費に残します。
- 傭車費用は利用運送収入の原価として計上します。
- 燃料油脂費と修繕費もトラック分は運送原価に移します。
以上のように整理しますと、図表2のような形になります。
自社便収入から、傭車費用以外の運送原価を引けば自社便の粗利益が分かります。
利用運送収入から傭車費用を引けば、傭車した運送の粗利益が分かります。
このように区別していくと、トラックを動かすために「何にどれだけお金がかかっているのか?」がはっきり見えてきます。そして、自社便と利用運送では粗利益率が倍以上に違うこともわかります。
2.粗利益改善のポイント
図表2の例では、自社便の粗利益率は23.6%と、まずまずの成績ですが、傭車の粗利益率が9.3%と低くなっています。傭車は、荷主の急な要望への対応や自社便のドライバーの欠勤等を補う上で必要ですが、売値ありきで交渉すると、このような結果に陥りがちです。傭車費用をベースに必要な利益を上乗せして荷主に提示することで、粗利益率を改善することができます。
また、この表を毎月時系列で見ていくと、比率が高くなっている原価項目を見つけることができます。それが、単純に物価高騰の影響なのか、それとも、生産性が落ちているのかと、原因追及をしていくことで、早めに手を打つことができます。
例えば、燃料油脂費の比率が高くなっている場合、デジタコのエコドライブに対する評価点が下がっていないかチェックして点数の低いドライバーを見つけて指導することで、改善が可能です。さらに、修繕費の比率が上がっている場合には、車両更新を検討する必要があるかもしれません。
そして、費用が上がっていればそれを荷主さんに負担してもらわなければなりません。その場合にも、「どの費用がどれぐらい上がっているので」という価格転嫁の根拠を示すことが交渉の決め手になります。
貸借対照表はどう見ればいいのか?
1.現預金が一番大事
貸借対照表は、簡単に言えば左側が「持っているもの」、右側が「持っているものの調達原資」と考えれば良いかと思います(図表3参照)。そして、「持っているもの」の中で一番大事なのが「現預金」です。例えば、何かで事業が継続できないとき、従業員の給与や取引先への支払いをするにも、「現預金」が必要になります。この金額が増えていっていることが大事です。理想は、1年間事業が止まっても大丈夫なように、年間売上高程度の現預金があれば安心です。
2.純資産がプラスになっているか
次に長期的な安全性を考えたとき、右側下にある純資産の合計がプラスになっているかどうかをチェックしましょう。マイナスになっていると、「持っているもの」を全部処分して現金化しても、負債を返せない状態になっているということです。ここがプラスかマイナスかは、金融機関の融資態度に大きな影響があります。
また、純資産がマイナスの状況を債務超過と言います。前回にお話ししました事業許可の更新制要件に「債務超過でないこと」という条件が入ってくる可能性があり、注意が必要です。
例に挙げた会社も損益計算書上では黒字ですが、貸借対照表では純資産がマイナスですので事業が継続できなくなる可能性があるということです。
このような場合、解消に向けてできることを考えましょう。最も重要なのは、収益性を改善して利益を積み上げることですが、資金繰りを安易に借入に頼らず、着実に借入金を減らすことも大事です。稼働していない資産、例えばゴルフやレジャー施設の会員権、使用していない不動産を売却して借入金の返済に充てるのも良いでしょう。
3.くせものの売掛金
流動資産の中に、「売掛金」という項目があります。これは、請求済でまだ入金されていない金額を指します。損益計算書上は、請求した時点で売上と計上されますので、売上よりも費用が少なければ黒字となります。しかしながら、「売掛金」は入金されなければ、現預金になってくれません。黒字なのに、お金が増えない理由の一つにこれがあります。
「売掛金」と「売上高」から、売掛金回収期間を把握しておきましょう。計算式は以下の通りです。
(期末売掛残高÷売上高(年間))×12=売掛金回収期間(月)
この売掛金回収期間が長くなっていると回収に時間がかかっているということが分かります。値上げの交渉と同じように、支払い条件の改善も日頃からお願いするようにし、新規の取引の場合にも、支払い条件があまりにも長い場合には、交渉することをお勧めします。
4.借入金の返済は費用ではない
売掛金と同じく、現預金が増えない原因に借入金の返済があります。借入金の返済額は損益計算書上の費用に反映しませんので、黒字であっても、その額を上回る返済があれば現預金は減少します。しかし借りたものは返さなければなりませんから、融資を受ける時には、返済余力があるかどうかをよく考える必要があります。
今後、金利の上昇が予想されますので、資金繰りを安易に借入に頼らず、経営改善による財務内容の改善を第一に考えることをお勧めします。
財務内容改善の道筋
決算書は企業の成績表です。自社の強みと弱みを教えてくれます。単に、税務署に提出する資料と思わずに経営改善のためのツールとして活用しましょう。
1.収益性改善に向けて
前述の粗利益が把握できれば、目標値を設定しましょう。運送原価以外の費用である販売管理費(例えば、事務員の給与、事務所の賃貸料、事務用品費等)の合計を粗利益が上回れば黒字化するはずです。その金額が一つの目安になります。それに将来の設備投資等を踏まえて、どれぐらいの利益が必要かを考え、目標値を設定します。次に、その目標値に達するための道筋を考えます。
粗利を増やすために、運賃を値上げするのか、車両の稼働率を上げるのか、それとも、費用を削減するのか。もう既に活用していると思いますが、協同組合を活用したETC料金の割引適用や、燃料の共同購入、自動車保険のフリート契約への切り替えといったコスト削減策があります。また、点検をしっかりと行い、オイル交換や簡単な部品交換を自社で定期的に行うことで、大きな修繕を回避することができます。
さらに、販売管理費を削減する方法もあります。リモート点呼やデジタコを活用した運行管理者の時間外労働の削減、グループウェアを活用した通信費の削減などです。全日本トラック協会では、「中小トラック運送事業者のDX推進」というチラシで、DXを活用したコスト削減のヒントを提供してくれています。参考にされてはいかがでしょうか?
全日本トラック協会
中小トラック運送事業者のDX推進
「どれか」ではなく、できそうだと考えられることからやってみることが大切です。
2.借入金の削減
本来、借入金は設備投資に充てたいものです。なぜなら、設備はのちに収入を生み、返済の原資となってくれるからです。しかしながら、資金繰りのための借入は、収入を生まないばかりか、金利の支払いも発生し、ますます収支を圧迫します。
手元にお金が無ければ不安だという気持ちも分かりますが、「返済が終わったから」、「融資枠が空いたから」と安易に借入を行うのではなく、「これ以上、借入は増やさないぞ」といった強い決意のもと、収支の改善に取り組むことが、安定した経営につながります。
特に、これから金利は上昇傾向になると考えられます。低金利の借入を返すために、高金利で新しい借入をするのは避けたいところです。
3.入出金のタイミングの改善
先ほど売掛金の回収を取り上げましたが、買掛金の支払いタイミングも重要なポイントです。運送業では、車両の融通で傭車先が傭車元でもあるということがよくあります。お互いの支払い条件が同一のものになっているか、不利な条件になっていないかを確認しておきましょう。
また、傭車を使用した運送の場合、傭車先への支払いが荷主からの入金よりも早くなっていると、その間の自己資金が必要になります。可能な限り、支払いと入金のタイミングを合わせるように交渉することが望ましいです。
そのほか、クレジットカード等を活用して、実際の決済時期が遅い支払い方法を選択することも有効です。
まとめ
全日本トラック協会が毎年発表している「経営分析報告書」によると、車両保有台数20台以下の事業者の平均で営業損益は令和6年度では0.1%の黒字となったものの、令和5年度まで赤字となっており、経営環境が厳しいことが分かります。
しかしながら、保有台数に拘わらず業績は上向き傾向であり、それに大きく寄与しているのが、運賃の値上げと考えられます。荷主の理解が深まったということもありますが、事業者自身が価格転嫁に向けて荷主とのコミュニケーションをしっかりとり、サービスの質を落とさずに努力してきた成果だと感じています。
ただ、コロナ禍以降の厳しい環境で悪化した財務状況の改善には、もう少しの努力が必要ではないかと思います。本稿を参考に、できることから一つずつ改善が進んで行けばと願っています。
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今からできること
すぐにできることを4つ提案します。
- まずは、正しい原価と粗利益を把握する
(税理士さんに協力を求めましょう) - 自社の決算書を「好業績の時」と、「低業績の時」、「現状」の3つで比較してみる
(良かった時は何が良かったのか、悪かった時は何が悪かったのかを確認しましょう) - 現預金と借入金の額の推移を確認する
(現預金が増えているのか、借入金は減少しているのかを確認しましょう) - 早めに外部の支援を利用する
(商工会議所、よろず支援拠点、金融機関の他、各都道府県トラック協会が行う経営改善支援事業等があります。気軽に相談してみましょう。相談内容がまとまっていなくても、決算書を持参すれば、アドバイスを貰えます。相談は無料の場合も多くあります)



