トラック運送事業者の安全管理体制の構築
安全投資を行わない事業者は淘汰される
はじめに
日々の運行、そして大切なトラックのメンテナンス、本当にお疲れ様です!
さて、運送事業にとって「安全」は最重要課題ですが、安全を管理する体制は構築されていますでしょうか?
これまで大きな事故無くやって来たからと、現状を省みないでいると、思わぬ事故等により、会社が危機に陥る可能性があります。今回は安全管理について解説します。
リスクマネジメントの基本
1.損害を最小限に留める
先日も熊本で大きな地震があり、多くの方が被災されました。心よりお見舞い申し上げます。このニュースを見て、地震等への対策を再度見直された方も多いのではないでしょうか?運送事業者にとっての事故に対する備えもこれと同じです。どんなに気をつけていても、地震と同じように事故は起こる可能性があります。ドライバーも人間ですからミスをすることもあります。そのような時に、会社がこうむる損害を最小限に抑えるような体制を構築しておくことが大事です。
事故を起こしたドライバーが責任を問われることは当然ですが、重大事故になると、運行管理者の責任も問われ、さらには会社、経営者の責任も問われます。最悪の場合は事業許可の取り消し処分を受け、事業が継続できなくなることもあります。このようなことにならないためにも、安全管理体制の構築が重要となります。
2.証拠を残す
会社や運行管理者が安全管理義務を果たしていたという事実を証拠としてしっかり残しておくことが大事です。点呼記録簿や運転日報が完全に保存されていることはもちろんですが、その結果に対して安全指導を行った記録も残しておきましょう。例えば、タコグラフで常態的に速度超過が認められるのに、放置していたとみられることは避けたいです。そのような時には、ドライバーに口頭で結構ですので、「速度超過に注意するように」と指導を行い、日報や点呼記録簿に「●月〇日、本人に対し口頭で注意」と記載しておきます。
また、安全衛生委員会等の議事録も残しておきましょう。できれば、出席者に自筆でサインをもらっておくとよいでしょう。定例の安全衛生委員会以外に、事故やヒヤリハットがあった場合には、臨時の安全衛生委員会を開き、事故事例を全ドライバーと共有し、この場合にも出席者のサインをもらいます。出席できなかったドライバーには後日資料を見せて説明し、サインをもらっておきます。
3.代替手段を確保しておく
上記のように、会社として最大限の努力をしても、重大事故を起こしてしまうと、トラックの使用停止処分を受けることがあります。筆者の知っている運送会社では、重大事故を起こしたドライバーの拘束時間が過去半年に2回法定を超えていたということで、120日車の使用停止を受けたことがあります。この時、この会社では、盟友企業に車両を出してもらい、自社のドライバーを助手として乗せて、荷主の業務が止まらないようにしました。当然、その間の収入はありませんが、ドライバーの給与は発生します。それでも、重要な荷主の仕事は守り、業務停止期間が終了すると、継続して業務を行うことができました。
このように、もしもの時にお互いに助け合うことができる仲間を持つことは重要です。これ以外にも、車庫が使えない、車両が使えない、ドライバーにインフルエンザが蔓延したといった事態を想定し、代替手段を用意しておくと、重要な荷主の仕事を止めることなく、取引の継続が担保できます。反対に、その準備が無ければ、他社に自社のシェアを奪われたり、取引停止となったりするリスクがあります。
安全を文化にする
いかに経営者が安全を重視し、指導や会議を重ねても、ドライバーの意識が変わらないと、安全重視は社内に根付きません。経営者が口に出さなくとも、社員が安全を意識した行動を取るようにするために、安全を社内の文化にする必要があります。
1.白いものは「白」、黒いものは「黒」を徹底する
「やらなければならないことは、絶対にやる」「やってはいけないことは、絶対にやらない」を徹底します。例えば、荷主の指示を守れば法令違反となるような場合、荷主にその旨を伝え、指示を変えてもらうか、変えない場合には運行を行わないといったようなことです。「やらなければならないこと」をやり、「やってはいけないこと」をやらなかったことによって、会社が損害をこうむっても、それは経営者の責任だと言い切ることで、社員は納得して指示に従います。白でも黒でも無いグレーが多い会社では、指示命令系統が乱れます。白いものは「白」、黒いものは「黒」は、会社をコントロールする上で、最も大事なことです。指示命令系統のしっかりした会社は、長い目で見ると着実に成長していきます。
2.挨拶から変える
私のようなコンサルタントにも「ご安全に」という挨拶をしてくれる企業があります。良い文化が根付いているなと思います。言葉だけじゃないかと思う方もいるかもしれませんが、毎日毎日その言葉を聞く、しゃべることにより、「安全」は必ず意識のどこかに残ります。
また、私がその会社の敷地に入ると、会う人会う人が挨拶をしてくれます。これはお客様への敬意を表すとともに、周りに「部外者がいるぞ」と知らせることとなります。フォークリフトで作業している人もその事を念頭に作業してくれるようになります。
挨拶をするのに、コストはかかりません。是非、根付かせたい習慣です。
3.乗務後点呼を重要視する
点呼は乗務前に運転不適格者を排除する目的でやるものだと思っている人が、世の中には多くいます。この業界の経験が浅い国交省の方からも聞いたことがあります。しかしながら、安全重視が徹底されている職場では、乗務前点呼で異常が出ることはほとんどありません。何か異常があれば、ドライバーが自ら申告してくるからです。重視したいのは、乗務後点呼です。
乗務後点呼は、ドライバーから運行の状況をヒアリングしたり、荷卸先の状況等を把握したりする重要なコミュニケーションの場です。デジタルタコグラフをつけていれば、さらに詳しい運行情報を運転日報から読み取ることができます。速度超過の回数や、急加速・急停止の回数もわかります。乗務後すぐの点呼は、ドライバーへの安全教育の絶好の場ともなります。デジタルタコグラフの運転日報には点数が出るものもありますが、良い点を取ったドライバーを褒めることで、安全運転へのモチベーションにもなります。
安全重視の文化を築き上げるには、しっかりとした乗務後点呼を行いましょう。
安全投資について
1.行政が考える安全投資
2026年4月に施行された改正貨物自動車運送事業法では、適正な原価の順守義務がうたわれています。この原価の中には安全投資を含むと、国土交通省は考えています。以前から、国土交通省では、安全投資のできない事業者を排除する必要性があるという考え方を示しています。特に2016年の軽井沢スキーバス事故をきっかけに道路運送法が見直されていますが、安全を軽視して格安をうたい文句にした事業者を排除すべきとの声に応えたものです。
そのため、今次の事業法の改正においても、「安全な運行ができない事業者には事業許可を更新しない」という姿勢で臨むのではないかと推測されます。
既に更新制が導入されている旅客自動車運送事業法の更新要件では、安全投資計画の策定が求められています。貨物にも適用される可能性はあると考えられます。
ここでいう安全投資計画とは何でしょうか。旅客自動車の場合には、以下のような項目が要求されています。
- 運転者、運行管理者、整備管理者の確保予定人数
- 車両取得予定台数及び保有車両台数
- その他の安全確保のために必要な事項
ドライブレコーダーの導入計画、適性診断の受診計画、安全性評価認定申請計画、運輸安全マネジメント評価受診計画、その他
上記の項目について、必要な費用も記載する必要があり、著しく低い見積金額の場合には、審査が通りません。
また、この計画に対して実績の報告も求められます。
2.具体的な投資内容
投資というと、設備投資を思い浮かべる方が多いと思いますが、実際には人的投資(人件費)が多く、適法に事業を運営している事業者であれば、既に負担しているものがほとんどです。例えば、適正な運行管理者や整備管理者の配置も安全投資とみなされ、その人件費が投資内容となります。
人的投資以外でも既に負担しているものに、定期点検の実施費用、オイル交換や部品交換等の修繕費用等があります。
適正化の巡回指導で否認が多い「特別指導」や「適性診断」の実施という項目があります(図表1)。「指導員がいない」「何をすればいいかわからない」というのが、理由として多く挙げられていますが、ドライバー数の少ない事業者では、ローテーションが回らないという理由も多いのではないかと思われます。これも、安全を確保するために不可欠な投資であると割り切り、必要な指導や診断は受けさせるようにしましょう。ドライバーの意識の向上に必ず効果があります。
また、日報や点呼記録簿の不備の指摘も多いですが、デジタコや点呼システムを導入すれば、人手をかけずに作成してくれます。こちらは設備投資となりますが、ドライバーや運行管理者の労働時間の削減につながりますので、安全という意味だけでなく、生産性向上にも役立ちます。IT化の進展に伴い、政府も遠隔点呼等の導入要件を緩和しています。ITを活用した安全管理関連ソフトウェアの導入も選択肢の一つと言えます。
図表 1 巡回指導での否認項目
【改善指導項目:ワースト10】
※「特定運転者」とは、初任者・高齢者・事故惹起者のことです。
画像はクリックで拡大できます
構築しておきたい安全管理体制
巡回指導では求められていませんが、構築しておきたい管理体制もあります。。
1.組織
従業員数が50名以上の事業所では、「安全管理者」の選任が求められています。「安全管理者」は学歴により所定の実務経験が求められ、選任されるには厚生労働省の定める講習を受ける必要があります。50名未満の事業所では不要ですが、任意で置くことはできます。
安全管理者の有無にかかわらず、安全管理体制の組織図は作っておくとよいでしょう。社長を責任者とし、安全に関しての担当者を明確にしておくことで、責任感が生まれます。図表2を参照してください。
図表 2 安全管理体制組織図の例
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2.会議体
安全管理者同様に、50名以上の事業場では安全委員会、衛生委員会(両方を兼ねる安全衛生委員会でも可)を設置する義務があります。
50名未満の事業場では、設置義務はありませんが、労働者の意見を聞く場として安全委員会を設置することを勧めます。
安全委員会の開催は、1カ月に1回でも2カ月に1回でも結構ですし、1回が10分でも構いません。この場を活用して、事故や違反の件数の報告、ドライバーが実際に経験したヒヤリハットの報告を行ってもらいます。デジタコを導入している事業場では、点数の高い安全運転ベストドライバーの発表や表彰を行っても良いでしょう。特にドライバーごとに出勤時間が違うような事業場では、全員が揃う場として、ぜひ、定期的に行うようにしてください。
ドライバーの出勤時間がある程度揃うような事業場では、日頃の朝礼や夕礼が大切です。この場でも上位者が一方的に指示するのではなく、ドライバーに話させる機会を作ってください。順番に当番を作り、今週の目標として「子供の飛び出しに気を付ける」や「早めのライト点灯を心掛ける」というような具体的な安全運転のポイントを発表させるのもよいでしょう。
3.目標設定と評価
これまで、安全管理について説明してきましたが、これを継続させていくためには、会社全体としての目標設定と評価(振り返り)が必要です。
目標は、なるべく数字で追え、達成可能なものとします。例えば、年間の事故件数、連続無事故日数、デジタコの平均点数等です。他にも、安全委員会の開催日数や参加者数のようなものもあります。
これらの目標項目は毎年変えるのではなく、時系列で追っていけるようにし、前の年より良くなった、悪くなったという評価ができるようにします。
目標が達成できれば、ドライバーに感謝し、QUOカードの1枚でも配ります。達成できなければ、ドライバーのせいにするのではなく、経営側としてどのような努力が足りなかったのか反省します。そして、それを翌年に活かし、目標達成に向けてアクションしていくことが大事です。
これができるようになれば、会社は変わっていくことでしょう。
まとめ
事故を恐れる気持ちは、運送業の経営者であれば誰しもが持っていると思います。しかしながら、人手不足や厳しい経営環境から、つい安全管理が疎かになってしまうことがあるのも事実です。ただ、事故を起こしたことによる結果の重大さを考える時、経営者としては断固たる行動を取らねばなりません。事故を起こしてから、「あの時にこうしておけば」といったような後悔をしても取り返しがつきません。
「安全のために、かかる費用はかけなさい。そしてそれは運賃に反映しなさい」というのが、政府の姿勢です。それができない会社は退場してくださいという強い意志が感じられます。2026年8月18日にNX総研が発表した「企業物流短期動向調査」では、調査した荷主の90%以上が「運賃は高くなった」と回答しています。荷主において運賃の上昇は避けられないという考えが定着してきているとも考えられます。「安全投資」を含めた自社の適正運賃について、再度検討していくことをお勧めします。
図表 3 運賃の動向
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今からできること
すぐにできることを5つ提案します。
- まずは、組織を構築する
(担当者を決め、組織図を作り発表し、掲示する) - 安全目標を設定する
(達成可能な数的目標を作る) - 安全会議を定期的に行う
(既に行っている場合は、内容を見直す) - 記録を残す
(安全会議の議事録や、日常の指導の記録を残す)