2024年問題に代表される時間外労働の上限規制、深刻化するドライバー不足、脱炭素経営への対応、災害や有事への備えなど、物流業界はこれまでにない変革期を迎えています。
こうした中、トラック輸送だけに依存しない「モーダルシフト」が改めて注目されています。本記事では、フェリーや鉄道を活用したモーダルシフトの最新動向や、労働時間管理への効果、課題と展望についてわかりやすく解説します。
なぜ今モーダルシフトが注目されているのか
モーダルシフトとは、トラック輸送を鉄道や船舶(フェリー・RORO船など)へ転換することで、物流の効率化や環境負荷の軽減を図る取り組みです。近年、以下のような背景から、その重要性が一層高まっています。
物流業界を取り巻く主な課題
ドライバ―不足高齢化や人材不足により、中長期的な輸送力の確保が難しくなっています。
時間外労働規制2024年問題により、時間外労働の上限規制が適用され、長距離運行の維持が困難になっています。
CO2削減の必要性脱炭素社会の実現に向け、物流分野でもCO2排出量削減が求められています。
災害・有事への備え自然災害や事故、国際情勢の変化に備え、輸送手段の多様化が重要です。
燃料価格の高騰燃料価格の高騰が続き、物流コストの上昇が経営を圧迫しています。
このような課題を解決する手段として、モーダルシフトは「接続可能な物流」を実現する鍵として期待されています。
フェリー輸送が再び注目される理由
長距離輸送の効率化やドライバーの負担軽減において、フェリーは非常に有効な選択肢です。
長距離輸送で活用されるフェリー航路(例)
関西~九州航路
大阪・神戸 ⇔ 北九州・新門司・別府など
関東~北海道航路
大洗・苫小牧・新潟 ⇔ 苫小牧・室蘭・小樽など
中京~九州航路
名古屋 ⇔ 新門司・志布志・宮崎など
フェリー活用によるメリット
- 長距離の運転時間を大幅に削減
- 燃料費や高速道路料金の抑制
- CO₂排出量削減(トラック輸送比で約1/5~1/7)
- ドライバーが船内で休息を取れることで、安全性が向上
フェリー乗船時間は休息期間になるのか
改善基準告示では、トラック運転者が勤務の途中でフェリーに乗船した場合、フェリー乗船時間は原則として休息期間として取り扱われます。
そのため、長距離輸送にフェリーを活用することで、ドライバーの拘束時間や運転時間の削減につながる可能性があります。
ただし、乗船中に運転日報の記載や車両移動などの業務を行った時間は労働時間として扱われるため注意が必要です。また、休息期間の計算には特例条件が設けられているため、運行管理者は改善基準告示に基づいた適切な勤務設計を行う必要があります。
無人航送という選択肢 ドライバーが乗船しないフェリー輸送
無人航送とは、ドライバーが乗船せず、トラックまたはトレーラーだけをフェリーに載せて輸送する方法です。
無人航送の流れ(例)
① 出発地
出発地ドライバーがトラックをフェリーターミナルへ持ち込み、固縛確認まで行う。
② フェリー輸送
トラックは無人で航送。
出発地ドライバーは乗船しない。③ 到着地
到着地ドライバーがトラックを引き取り、目的地まで運行する。
無人航送のメリット
- ドライバーの乗船費が不要(車両航送料のみ)
- 出発地・到着地双方のドライバーの拘束時間短縮
- 長距離運行負担の軽減
- 効率的な人員配置が可能
運用時の注意点
- 船会社ごとに条件や手続きが異なる
- 鍵の受け渡し方法を明確にする
- 車両状態の確認ルールを定める
- 到着港での引き取り体制を整備する
進化する鉄道貨物輸送
日本の物流を支える大量輸送インフラ
モーダルシフトというとフェリー輸送が注目されがちですが、日本の物流を支えるもう一つの重要な輸送手段が鉄道貨物輸送です。
例えば貨物列車1編成で10トントラック数十台分に相当する貨物を輸送できるため、輸送効率や環境性能の面で非常に優れています。また、ドライバー不足が深刻化する中、人手に依存しない輸送手段としても期待が高まっています。
鉄道輸送は大量輸送に優れており、一度に多くの貨物を長距離輸送できることが大きな特徴です。特に北海道・東北・関東・中京・関西・九州を結ぶ幹線輸送では、現在もJR貨物を中心に全国規模のネットワークが構築されています。
近年ではJR貨物だけでなく、旅客鉄道会社による物流サービスの取り組みも進んでいます。新幹線の空きスペースを活用した高速輸送サービスや、駅を物流拠点として活用する実証実験など、新たな輸送モデルが次々と登場しています。
さらに、自動運転トラックや中継輸送との連携も検討されており、将来的には「トラックで貨物駅へ搬入→鉄道輸送→貨物駅から配送」という輸送モデルがさらに拡大していく可能性があります。
広がる新たな鉄道物流サービス
新幹線を活用した高速輸送
新幹線の空きスペースを活用し、小口荷物をスピーディーに輸送
駅を物流拠点として活用
駅のスペースを活用した貨物の集荷・仕分け・一時保管を実施
新たな輸送モデルの実証実験
鉄道と他の手段を組み合わせた効率的な物流の仕組みを検証
鉄道輸送の特徴と注意点
一方で鉄道輸送にはダイヤが固定されているという特徴があります。そのため、緊急配送や時間指定が厳しい輸送には向かないケースもあります。しかし、定期便や計画輸送との相性は非常に良く、今後の物流効率化において重要な役割を担うことは間違いないでしょう。
モーダルシフト導入時に見えてくる課題
モーダルシフトは多くのメリットを持つ一方で、導入にあたってはいくつかの課題も存在します。
① 積み替え工程の増加
中継地点での受け渡しや車両移動が必要になるケースがあり、荷役作業の手間や管理工数が増加する可能性があります
② 輸送リードタイムの変化
フェリーや鉄道は運航ダイヤや運行時刻が決まっているため、トラック輸送のような柔軟な運行は難しくなります。
③ 荷崩れ・貨物損傷対策の重要性
フェリー輸送では波浪による揺れ、鉄道輸送では発進・停止時の荷重変化が発生します。
④ 自然災害への備え
フェリーは荒天による欠航、鉄道は大雨や地震による運休の影響を受ける場合があります。
⑤ 物流全体の最適化が必要
モーダルシフトは単なる輸送手段の変更ではなく、物流全体を最適化するための仕組みづくりが重要です。
まとめ|モーダルシフトは人材不足解消の切り札になるのか
物流業界が抱える最大の課題の一つがドライバー不足です。
少子高齢化の進行により労働人口が減少する中、長距離輸送を担うドライバーの確保は年々難しくなっています。さらに2024年問題に伴う労働時間規制の強化により、従来と同じ輸送体制を維持することが困難になりつつあります。
こうした状況の中で注目されているのがモーダルシフトです。
フェリーや鉄道が長距離区間を担うことで、ドライバーは集荷・配送といった比較的短距離の運行に集中できるようになります。これにより拘束時間や運転時間を削減できるだけでなく、働きやすい労働環境の実現にもつながります。
また、長距離運行による身体的負担や泊まり勤務が減少すれば、若年層や未経験者の採用促進にも好影響を与える可能性があります。物流業界全体の魅力向上という観点からも期待されています。
さらにモーダルシフトは、人材不足対策だけでなくCO₂排出量削減や燃料消費抑制にも貢献します。企業のESG経営や脱炭素経営の取り組みとしても注目されており、社会的な評価向上にもつながるでしょう。
もちろん、すべての輸送をフェリーや鉄道へ切り替えることは現実的ではありません。最終的な配送や地域内輸送では、今後もトラックが物流の主役であり続けます。
重要なのは、トラック・フェリー・鉄道それぞれの強みを組み合わせることです。
これからの物流は、一つの輸送手段に依存する時代から、複数の輸送モードを最適に組み合わせる時代へと移行しています。モーダルシフトはその中心となる考え方であり、持続可能な物流を実現するための有力な選択肢と言えるでしょう。